インクリメンタリティ(増分効果)は、広告主が広告の価値をより明確に理解する助けになるだけでなく、
小売メディアが自社プラットフォームの優位性をパートナーに自信を持って示すことにもつながります。
予算が限られる時代において、このようなデータ分析力こそが広告主からの信頼を得る鍵となるのです。
インクリメンタリティ (Incrementality):マーケターが知っておくべき重要トレンド
「インクリメンタリティ(Incrementality)」は、マーケティング界やリテールメディア業界で注目されているホットな話題であり、広告主が広告効果を評価する際の重要な指標の一つになりつつあります。この概念自体は新しいものではありませんが、広告業界ではその効果が再評価されています。
しかし、世界経済の低迷により、広告費に対する要求はより厳しくなり、ブランドや広告主は費用対効果に対して一層慎重になっています。彼らは、真に価値をもたらす投資かどうかを見極めようとしています。
Gartnerの「2024年マーケティング支出調査」によれば、395社のブランドCMOに対して調査を行った結果、広告支出が売上高に占める割合は、2023年の9.1%から7.7%へと減少したことが明らかになりました。
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多くのリテールメディアネットワーク(Retail Media Networks)はすでに「インクリメンタリティ(Incrementality)」に関する説明を提供し始めており、広告主にこの指標の重要性と意義を証明しています。Instacartの広告製品担当副社長であるAli Miller氏は次のように述べています:
インクリメンタリティは「広告が実際の販売に与える影響を測定するゴールドスタンダード」です。
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インクリメンタリティ(Incrementality)とは?
簡単に言えば、インクリメンタリティとは、マーケティング活動の実際の価値を測定するための手法です。
米国IAB(Interactive Advertising Bureau) はこれを以下のように定義しています:広告活動の成果から他の影響要因を排除し、広告による純粋な効果(売上やROASなど)を明確にすること。
IABのJeff Bustos氏はさらに、インクリメンタリティの核心は「コントロールグループとの比較」であると補足しており、これにより広告が売上やROASに与える真の影響を把握できると述べています。
要するに、「広告がなければ得られなかった成果」がインクリメンタリティの意味です。
その公式は非常にシンプルです:
(テストグループの成果 - コントロールグループの成果)÷ コントロールグループの成果 = インクリメンタリティ
つまり、広告がない場合の成果と広告があった場合の成果との差が、広告の純粋な効果といえます。
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アトリビューション(Attribution)分析とは?
アトリビューション分析(Attribution Analysis) とは、ある成果(たとえば売上や注文数)に対して、どのマーケティング接点がどれだけ貢献したかを割り当てる分析手法のことです。
「インクリメンタリティ」が全体的な収益増加への貢献を評価するのに対し、アトリビューション分析は どのチャネルが成果に貢献したか を明らかにすることで、最終的なマーケティング施策の最適化に役立ちます。
事例で説明:
例えば、あなたが新商品のプロモーションキャンペーンを計画しており、次のような施策を実施したとします:
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FacebookおよびInstagramの有料広告
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商品紹介のブログ記事やオウンドメディアコンテンツ
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Instagram・TikTokのソーシャル投稿
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電子メールでのクーポン配布(商品の需要喚起)
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LINE公式アカウントからの割引情報配信
実際にこのキャンペーンの売上が100万になった場合、次の課題はこの売上のどの部分がどの施策によるものかを特定することです。
たとえばこんな疑問が生まれます:
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Facebookの広告 が新規顧客の認知につながったのか?
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Instagramの投稿 がブランド想起やリスト登録を後押ししたのか?
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電子メールのクーポン が最終的な購買を促進したのか?
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TikTokの投稿 が購買意欲を引き出したのか?
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LINEの割引案内 が直接的な購入の引き金となったのか?
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増分効果とアトリビューション分析の活用
インクリメンタリティ(incrementality)とアトリビューション分析(attribution)は、相反するのではなく補完し合う分析手法です。本来は同時に実施されるべきものであり、両方を活用することで最大の価値を引き出せます。
この2つを組み合わせることで、広告施策、マーケティング活動、チャネルが売上成長や顧客行動に与える真の影響を深く理解することができます。
最も理想的で効果的な施策と、最大のマーケティング投資対効果(ROI)を導き出すための指針となります。
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なぜインクリメンタリティ(Incrementality)は重要なのか?
インクリメンタリティは、広告主が広告施策の価値を正しく理解し、信頼できるパートナーとしての優位性を示すのに役立ちます。
データ取得が制限される現代において、インクリメンタリティは広告主が信頼を置く判断基準となります。
もし、マーケティング活動の成果を測る明確な方法がなければ、広告費の正当性を証明できず、信頼を失うリスクがあります。
つまり、インクリメンタリティは次世代の広告評価に欠かせない基準なのです。
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インクリメンタリティ測定のメリット
インクリメンタリティ(増分効果)は、マーケティングにおける「北極星(NorthStar)」とも称される重要な指標です。
それは広告施策が各チャネルでどの程度の実質的な影響をもたらしたかを可視化するためです。以下は、インクリメンタリティ測定が広告主にもたらす4つの主なメリットです:
1. 広告投資の正当性を証明する
インクリメンタリティ測定により、広告活動が自社プラットフォームにおいて追加の売上を生み出したかどうかを明確に把握できます。
これにより、ブランドの広告費が真に成果をもたらした活動であることを証明できます。
2. 広告活動の真の価値を理解する
インクリメンタリティは、直接的な影響だけでなく、広告施策が生み出した実質的な価値を評価できます。
また、広告主が広告施策と顧客行動との関連性をより深く理解できる手助けとなります。
3. 広告予算の最適配分を実現する
インクリメンタリティ測定によって、広告費が本当に新たな購入者や収益を生み出しているかを把握し、無駄な投資を避けることができます。
4. 長期的な活動価値を最大化する
インクリメンタリティは、長期的なマーケティング活動の効果を測定することにも役立ち、ブランドが成果を持続的に高めるための指針となります。
増分効果をどう測定する?
データに語らせてマーケティング成果を証明しよう
増分効果(インクリメンタリティ)を測定することは、非常に重要でありながらも難しい作業です。
なぜなら、このプロセスにはさまざまな理論や公式、データソース、測定手法が関係しており、
統一された標準が存在しないからです。
むしろ、同じ指標を測っているようで、異なる方法では全く異なる結果が出ることも少なくありません。
Publicisのチーフコマーシャル戦略責任者 Jason Goldberg 氏はこのように述べています:
「マーケターや財務チームは、いくつかの施策の結果を“リンゴとリンゴ”で比較できることを望みますが、
現実にはそれは不可能です。」
このように、測定方法の違いが異なる結論を導く可能性があることが、インクリメンタリティの測定における
最大の課題の一つとなっています。
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どうすれば効果的にインクリメンタリティ(増分効果)を測定できる?
インクリメンタリティを正しく測定するために、IAB(インタラクティブ広告局)の提言を参考にすることができます。
彼らは以下のような核心原則と実用的な方法を挙げています:
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適切な手法を選ぶこと:
異なるマーケティング活動には、それぞれ適した測定手法があります。
たとえば A/B テスト、テスト/コントロールグループ比較、モデル予測など。
あなたの目的に合った方法を選ぶことで、結果により参考価値が生まれます。 -
信頼できるデータソースを活用する:
インクリメンタリティの測定には正確で詳細なデータの裏付けが必要です。
これには販売データ、広告支出データ、さらには消費者の行動履歴なども含まれます。
信頼できるソースからデータを集めることで、測定結果のバイアスを最小限に抑えられます。 -
透明性を確保する:
測定結果は広告主やその他のステークホルダーにも理解でき、信頼される必要があります。
測定プロセスやデータの出所を明確にすることで、透明性が担保されます。
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測定効率を高めるためのヒント
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専門的なデータ分析プラットフォームと連携し、測定プロセスの効率性と信頼性を確保する。
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測定手法を継続的に最適化し、市場や技術の進化に応じてシステムがアップデートされるようにする。
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チームやパートナーとの円滑なコミュニケーションを維持し、測定手法や結果に対する共通認識を持つ。
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なぜ広告主はインクリメンタリティ(増分効果)をますます重視しているのか?
インクリメンタリティは、広告主にとって注目すべき指標となっています。それは、リテールメディア活動における実際の「影響力」を明確に示すからです。単なるデータ上の成長を示すだけでなく、実際の売上への寄与を証明します。
米国広告主協会(ANA)の調査によると、広告主の42%がリテールメディアネットワーク(RMN)への継続投資に慎重な姿勢を見せており、インクリメンタリティは、その投資判断を支える重要な指標とされています。
インクリメンタリティの鍵となる価値
従来のROAS(広告費用対効果)では測れない「追加売上」や「行動の変化」に注目するインクリメンタリティは、広告主が本当に影響を与えたかを測る上で、より説得力のある指標です。
たとえば、クリックが発生しても購入に至らないケースは多く、広告が意思決定に本当に影響を与えたかは不透明なままです。
Skaiの副社長 Moti Radomski 氏もこの点を強調し、「YouTube広告を見て即購入するわけではなく、購入はその後の意思決定の結果である」と述べています。
彼は、「広告が与える“結果”だけでなく、“影響”を測る必要がある」と強調しました。
調査によれば、56%の広告主が、RMNで最も重視するKPIとして「インクリメンタリティ」を挙げており、ROIやROASを上回っています(ROASは58%)。
経済的プレッシャー下で、インクリメンタリティの重要性が高まる
予算が削減される中、各マーケティング活動の真の貢献度がより問われるようになります。
Publicis の Jason Goldberg 氏も「インクリメンタリティは、広告主が限られた予算の中で、実際にどのメディアが売上に貢献しているのかを判断する“真北”のような存在」と語っています。
インクリメンタリティは広告主にどんなメリットをもたらすのか?
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精度の高い貢献度の可視化:広告や施策が本当に売上や行動に貢献しているかを証明できる。
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投資判断の明確化:正確な貢献度データに基づき、無駄のない投資判断が可能。
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社内説得力の強化:数値をもとに社内関係者やパートナーとの信頼を築ける。
小売業者がインクリメンタリティ(増分効果)を高めるには
インクリメンタリティの効果を高めるには、広告とマーケティングの取り組みを全体的に強化する必要があります。
競合や市場のトレンドなど、効果に影響を与える要因はコントロールできませんが、以下のようなアプローチによって、インクリメンタリティの向上に貢献できます:
1. ユニークな広告クリエイティブを提供する:ユーザーの注意を引く広告形式(動画、バナーなど)を使うことで、同じユーザーに新しい体験を提供し、自然な認知を生み出す。これにより、ブランドの新規顧客を獲得しやすくなります。
2. 適切なターゲティング戦略:既存のデータを活用し、消費者への影響を最大化するためにキャンペーンを調整します。
たとえば、ユーザーが広告に接触する前にすでに購入を検討していた可能性がある場合は、購買意欲が高いユーザーへの露出を避け、真に広告の影響を測定できるようにします。
3. リターゲティングではなく、パーソナライズされたターゲティング:正確なデータに基づいて適切な受け手に広告を配信することで、ブランドの長期的な顧客価値(LTV)を高められます。
4. キャンペーン頻度の最適化:過度な広告表示はユーザーの疲れや広告の無効化につながる恐れがあるため、メッセージの一貫性を保ちつつ、頻度の最適化を図ることが重要です。